統計学的に1例のデータというのは、コイン一枚を投げて表裏のどちらかがでるか(安全か安全でないか)1回試しただけの事象(イベント)です。公正なコインのように本当の安全性が50% (2分の1の確率) かどうかをテストするなら、1例中安全性が確認された1例からわかるのは、安全性は50%の確率に等しいと言えます。
しかし、20回に1回しか表が出ない細工の施されたコインのように本当の安全性が5% (20分の1の確率) かどうかテストするなら、1例中安全性が確認された1例からわかるのは、安全性は5%の確率に等しいと言えます。一方、5回に4回も表がでるコインのように本当の安全性が80% (5分の4の確率) かどうかテストするなら、1例中1例の安全性データから、安全性は80%の確率に等しいと言えます。
一体、これらの例は何を意味するでしょうか。1例中1例の安全性において、統計的バラツキが(便宜上二項分布での95%信頼区間で)2.5%から100%と算出されることが背景にあります。つまり、1例中1例で安全性を確認されたので「安全性をモニターしていた期間において、2.5%から100%の確率で安全である」と言えることになります。
「2.5%から100%の確率」なんて適当だなと思うひとが大半でしょう。つまり、定量的な説明が必要な科学的観点からは、1例のデータで言えるのはここまでです。1例での安全性は確認できましたが、iPS細胞に関する移植治療自体の安全性が確認できる数字とは言えないですね。
この世界初のiPS細胞に関する臨床研究の概要によると、研究全体では6名の患者さんを登録して治療を評価することになっています。
もし全6例中5例で安全性が確認されると、同様の方法で統計的バラツキが36%から99.6%と算出されるので、結論は「36%から99.6%の確率で安全である」となります。もし全6例で安全性が確認されたとしても、統計的バラツキが54%から100%と算出されるので、結論は「54%から100%の確率で安全である」となります。
予定の6例で安全性を検討しても精度には少し限界がありますね。