iPS細胞による治療の安全性とパワー50%以下について


先の統計学用語「第二種過誤」はβという記号を使うのが慣例ですが、統計学的パワー(検出力)というものが、(1-β)x100%で表せます。統計学的パワーは、データの中に本当に何らかの差がある場合、その差が統計的検定で(つまりテストして)どれだけ有意差として結果にでてくるかというものです。

例えば、本当は臨床的に意味のある差が含まれているデータに対して、パワーを90%に設定した統計的検定方法ならば、100回統計学的テストを実施したとき90回は「有意差あり」、10回は「有意差なし」の結果がでてくるはずです。

実際は有意差があるはずのデータですから、パーフェクトな検定方法であれば100回中100回「有意差あり」という結果がでてきますね。しかし、検定方法で設定したのは90%のパワーなので、100回中90回「有意差」が検出できるのです。

治験では最適な統計学的パワーを考慮することが行政上求められているので、通常このパワーが問題になることはありません。一方、動物実験や薬の開発以外の臨床研究で、統計学的パワーを考慮して試験がデザインされないことが頻繁にあります(ただし、アメリカでは統計学的デザインは厳しくチェックされます)。

近年は、医学雑誌の論文でも統計学的部分に関するレビューが厳しくなっているようです。その結果、研究・実験が終わり論文にまとめ、それを投稿した先の科学雑誌のレフリーに「パワーは十分あるのか」と質問され困ってしまうことがあります。

実のところ、サンプルサイズは適当に決め、統計学的パワーは計算していなかったか、計算していても臨床的(または生物学的)意味のある差に対しての妥当な統計学的手法を考慮せずにデザインした実験だったので根拠があいまいだったりします。


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