ディオバン事件:生物統計家の倫理観


このようにしてデータセットをメールやドロップボックスでやり取りすれば、データの捏造・改ざんがあった場合、統計解析者が行ったのか、それ以前に作業したものがやったのか、すぐに特定できるでしょう。

ディオバンのKYOTO HEART STUDYでは、症例数3000と大規模なのでデータマネージメント体制が整っている必要がありました。この試験の主要論文を含め殆どが撤回されているのでデータマネージメントの状況を把握するのは難しいですが、試験デザインに関するjournal of Human Hypertensionの論文 (published online 18 September 2008)  によると臨床研究チームからは独立したデータセンターが神戸にあり、データマネージメントをしていたとあります。

”all the data recorded at each centre was managed centrally at the independent data centre in Kobe, Japan. Randomisation and data management were managed by the wide area network using a secure server.”

不思議なのは、神戸のデータセンターが捏造した医師のいる大学側と逮捕された統計解析者の間に入っていたことになり、そうするとデータセンターも不正に関与していたのでしょうか。

そうではなくて、データセンターはネット上のデータキャプチャーシステムによりデータを記録していただけで、本当の意味のデータの整合性チェック・品質管理は行われていなかったと推測します。つまり、データマネージメント体制が整備されていなかったということで、法的規制のない日本の医師主導型臨床研究(臨床研究に係る制度の在り方に関する報告書・別紙3)ではありえそうな話です。また一方、この不明瞭なデータマネージメント体制の部分につけこみノバルティスファーマが組織ぐるみで関与しデータ捏造改ざんが行われていたケースも考えられますね。

 

以上、ノバルティスファーマの降圧剤ディオバンの不正事件を考察し、統計解析者には特に強い倫理観を持たなければならないことを述べました。また、医師や研究者の倫理観が欠如していたと同時に統計解析者をチームへ主体性をもって関わらせていたかの疑問や、データマネージメント体制の不備も推測されました。この事件を初めとした幾つかの臨床研究上起こった不正をうけ、不正防止策として色々な提言がされています。次回は、これらの提言について考察します。


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