ディオバン事件:生物統計家の倫理観


3. データマネージメント体制の不備

ディオバン事件の問題は、ディオバン宣伝の根拠となったデータに捏造・改ざんがあったということです。そして事件では、統計解析者にスポットがあたり、統計専門家の育成の必要性が盛んに言われました。

しかし、先に述べたように、データの捏造・改ざんには医師も大いに関わっていました。更にわすれてはならないのが、データマネージメント体制がしっかりしていれば、このような事件は起こりにくいということです。

データマネージメントと統計解析の仕事は違うというのが、製薬会社の臨床開発部門やアメリカで統計解析をするものの常識です。

臨床試験でデータを解析するまでには、患者カルテから臨床試験で目的とするデータをデータシート(症例報告書)に写し取り、データベースに入力し、データ自体の整合性をデータマネージャーがチェックします。

例えば、カルテからデータシートに写す際に起こるエラー(ヒューマンエラー)、カルテに書かれているデータ自体が臨床試験計画に沿っていない医学的な逸脱やデータの欠損、日付が前後しているデータエラー、データベース入力エラーなどを見つけ出し修正するため、臨床試験データの品質管理においてデータマネージメントの仕事は重大でスキルを要します。

データマネージメントが完了し(新薬臨床試験の場合はデータロックを行い)、整合性あるデータが統計解析者に渡ります。統計解析者もデータクリーニングという作業をしますが、このデータクリーニングは固有の解析法に必要なデータセットを整え作り上げるためのものです。元々整合性がないデータから必要なデータセットを作り解析しても、その解析結果に信頼性はないし解析作業は無駄になります。

データマネージメント体制がない基礎研究データや臨床研究データにおいては、データマネージメントの仕事はデータを集める研究者本人か、データマネージメントのバイトを雇って行うことが多いでしょう。

統計解析者は、解析用のデータを受け取るときに十分注意しなくてはなりません。データマネージメントが完了していないデータであることがあるからです。アメリカでは、データマネージメントが完了し「解析可能なデータ」を提供してくれるまで、解析は行わないというはっきりした態度をとります。解析可能なデータはanalyzable datasetと表現します。Analyzable datasetがどんなデータセットか分からない若手研究者もいるので、私はサンプルデータセットを渡して同様な構造のデータが欲しいと言っていました。


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