デジタイズド・メディシン:ビッグデータと薬の開発


米国メドトロニック(Medtronic)が最初の人工すい臓と呼べる製品 Minimed 530Gを2014年に米国で上市、次いで640Tがリリースされました(日本にもメドトロニックの拠点があります)。640Tの開発段階では、実際にはコンピュータ・コントロールするアルゴリズムに誤りがでたり、装着の仕方によってポンプが詰まったりということがあったそうです。ホメオスタシスで複雑に制御される生体サイドの要因、装着する患者の行動要因、そして人工すい臓装置の間のすべての相互作用をin silicoだけで考えることの難しさを示唆しているでしょう。

さらに上記の記事によると、完全なclosed-loop systemのロボすい臓を開発する上で決定的に必要なものが足らないと言います。それは、少なくとも10-15分以内に作用する超速効型インスリンアナログ製剤です。

現在アメリカで一番作用の速い製剤は、イーライリリー社のHumalogやノボノルディスク社のNovologなどです。これらは体内への吸収を改善した製剤で、薬理の授業では15-30分内で作用すると習いました。しかし、Humalogの添付文書のデータでは、健常人でのインスリンの血中濃度のピークも患者での血糖値レベルの下降も30分以降に現れていて個人差も高いとあります。

いずれにせよHumalogやNovologなどの超速効型インスリンアナログ製剤はすでに生理的なインスリン分泌に近いとされているのに、さらに速効のインシュリン製剤が求められているというのは、薬の開発に携わるひとには面白い話だと思います。

そして、closed-loop systemのロボすい臓装置の開発上、フィードバック・コントロール・システムに時差(ラグ)が生じるので、そのラグを解決するために10-15分以内に作用する超速効型インスリンアナログ製剤の使用が欠かせないそうです。

次の例として、”Follow the wandering nerve”という記事があります。これは迷走神経(VNS)への電気刺激を最適化し、てんかん、脳梗塞、心不全、偏頭痛やクローン病まで治療してしまおうという試みです。グラクソ・スミスクラインはこのような治療をエレクトロシューティカル (electroceuticals)と位置づけベンチャーキャピタルを設立したそうです。これは、個体内のデジタイズド・メディシンの例ですね。


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