iPS細胞で薬はいらなくなる?


例えて言うならば、iPS細胞で作る細胞や組織は、車の部品交換の新しい部品のようなもので、時間がたてばトラブルはまた起きる可能性があります。トラブル時は従来どおり、コンディショナーなどのメインテナンス用品(つまり従来の薬)が必要です。しかも、新品の部品が実は純正のものか(iPS細胞からできた組織がヒト受精卵から生体内で分化してきた組織と同質のものか、移植での拒絶反応は本当におこらないのか等)まだ判断がつかない状態だったら、より頻繁にメインテナンスが必要かもしれません。

以前の投稿記事「老人だと体脂肪率が増える」で、Biopharm. Drug Dispos.の論文 (2013 November ; 34(8): 442–451)を挙げましたが、この論文ではエイズ患者が肝臓移植 and/or 腎臓移植をするときから免疫抑制剤と抗レトロウイルス薬を長期併用したときの薬物動態を見ています。論文をみると分かるように、免疫抑制剤や抗レトロウイルス薬の薬物動態は、移植臓器の状態によっても左右されます。このため、薬の増減または投与間隔を変えても効果を得られず新しいものに変えていかなければならない患者さんもいて、薬の数も多いです。

つまり、臓器移植患者において、薬は絶対必要なものであり、しかもより安全で有効性のある薬の開発はこれからも求め続けられると思います。

iPS製品が、将来臓器移植に用いられるようになったときーー上記のようにエイズ患者の肝臓や腎臓移植で用いることになれば、それが自己由来の製品でない限り抗レトロウイルス薬に加え免疫抑制剤は必須でしょう。しかも、人工の移植製品であるため予測と違った薬物動態を示せば、さらに違う薬が必要なケースもあります。

つぎに、ふたつめのiPS細胞を新薬開発のプロセスで用いる場合は、iPS細胞そのものは当然薬ではなく薬をつくるために使用される実験材料として用います。

わたしの大学でもヒトiPS細胞からヒトのあらゆる組織に誘導分化させるプロジェクトがあるそうです。ただし、臓器移植の薬学を専門にされる教授にきいた話ですが、薬の評価に使えるほど生体と同等性のある組織作製にはほど遠いということでした。

薬の評価で使うには定量的な再現性が必要であるため、実用化への道はまだ半ばという感じでしょうか。実用化できれば薬の開発プロセス自体は、薬事法の見直しも含め変革があり面白くなるかもしれませんね。


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