ディオバン事件:不正防止策に関する考察


質の高い統計解析を担保するためには、ひとりの生物統計家が臨床研究の初期デザインから統計解析まで全てに携わる、または指導するのが理想です。わたしも研究所で担当する臨床研究は試験デザインから解析まで全て行うようになっていました。ディオバン事件の場合、KYOTO HEART STUDYの試験デザインの論文 (published online 18 September 2008)  によれば、臨床研究をデザインしたのはノバルティス元社員の統計解析者とは別の統計専門家だったようです。試験デザインをした人物が解析も行っていれば、または少なくとも統計解析に責任を負っていれば結果は違っていたかもしれませんね。

生物統計家が臨床研究初期の段階から関与していく上で大事なことは、コミュニケーションのしやすさだと思います。臨床研究の責任研究者(Principal Investigator, PI)は多くの場合医師ですが、臨床研究の内容はオープンに全て共有してくれます。彼らと一文または数語のみのメールで頻繁に書類のやりとりでき、電話が気軽にでき、コーヒーショップで待ち合わせ打ち合わせができ、ファーストネームで呼び合う。仕事を一緒にしたPIの殆どが快活に声をかけてくる医師でした。

あるとき日本人医師とも仕事をすることがあり、快活で有能な先生でしたが、わたしに対しても「先生」と呼ばれたのには驚きました。これを思い出せば、日本でアメリカと同様なコミュニケーションとはいかないのかと想像します。

日米文化の違いがありますが、医師でもある研究者は全ての研究内容を初めからもったいぶらず共有してくれるのか。共同研究者としてお互いに分からないことは快く教え合えるのか。日本の敬語は難しく、ニュアンスに気をつけて文章を書くだけでも時間を費やすが、そのようなメールのやりとりが必要なのか。研究を進める上で、統計解析家の積極的で実質的関与において、これらの障害が気になります。


生物統計家の育成とポストの設置

熊本日日新聞社の記事で「臨床研究には生物統計の専門家が必須というのが世界の常識だ」とありますが、大体当たっているが実際そこまで絶対的でもありません。なぜなら、生物統計家を雇うにはそれなりの予算が必要ですが、全ての臨床研究でそこまでの予算はとれないからです。

生物統計家が入っているのは、臨床試験、ある程度の規模の臨床研究、または研究者が所属する学科が専属の生物統計家を雇っている場合などです。


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