ディオバン事件:不正防止策に関する考察


プレ審査では統計以外でコメントを出すことも時々ありました。こういう場合も、回答を避けて何かの権威をかざして審査を通過させようと試みる研究者もいました。わたしに利害関係はないので、IRBは独立審査機関なので他の権威は関係ないという旨で同じコメントを返しました。2回目は素直に回答が返ってきていたので、圧力に負けないことが大事です。プレ審査を同様に任される他の人たちは、どのように対応し、或いはどこまで細かく審査していたのでしょうか。

このように施設にIRBが設置されると研究者側が上層の医師であればパワーバランスと審査期限というプレッシャーから、公正な審査へも圧力がかかる恐れがありそうです。従って、中央機関としてのIRBでなければ、ディオバン事件の大学IRBのように、不正に歯止めが利かない可能性もまた出てくるでしょう。


生物統計家の臨床研究への関与

生物統計家が主要メンバーである日本計量生物学会は、ディオバン事件を受けて2013年9月に声明を出しました。この中のひとつ目の提言では、「臨床試験、臨床研究には(中略)生物統計専門家の計画段階からの実質的な関与を必須」とするよう求めています。

生物統計の仕事をしたのはアメリカでだけなので、日本のアカデミックの実情は良く分かりませんが、日本の給料の低さや論文の統計解析部分を見ると、統計解析者の計画段階からの臨床研究へのかかわりは低そうです。

アメリカで勤務した研究所では、生物統計の仕事はふつう臨床研究の計画段階から関与していました。具体的には、若手研究者の研究費獲得のための研究計画では、初めの原稿(ファーストドラフト)が直ぐ私の手元に回ってきて、それをもとに主要なセクション(Introduction、Aims, Objectives, Study Methods, Measurements, Statistical Considerations, Referenceなど)を打ち合わせしていました。統計は研究目的 (Aims, Objectives) と密接に関わるのでこの部分からディスカッションすることが重要です。

臨床試験の仕事でも、統計に関しては同様のプロセスですが、研究の規模が大きく、製薬会社の治験の治験計画書(プロトコール)と同じようにしっかりしたプロトコールを作るので、初期の段階から、治験責任医師(Principal Investigator, PI)、データマネージャーやプロジェクトマネージャー、疾患委員会の医師らと電話会議で定期的に検討しあい、PIとも個別に相談しながら、統計解析のセクションも書き上げていくというやりかたです。


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